サラリーマンなら一度は夢見る「自分の城」。
「嫌な上司に頭を下げるのはもう御免だ」「俺のこだわりを詰め込んだ店を持ちたい」。その気持ちは痛いほどわかる。だが、現実は甘くない。
飲食店の3年以内の廃業率は70%とも言われる。特に危険なのが、退職金を全額突っ込んでしまう「ド素人のこだわり開業」だ。
今日は、営業部長としてのプライドを捨てきれず、半年で資産を溶かした男の末路を見てもらおう。
第1章:「俺の接客なら客は来る」という慢心
佐々木達也(仮名・55歳)は、食品商社の営業部長だった。
長年、接待で多くの飲食店を見てきた自負があった。「最近の店はなってない。俺ならもっと気の利いたサービスができるのに」
役職定年を前に、会社の人事評価に不満を抱いていた彼は、早期退職を決意。退職金2000万円に加え、貯金500万円を合わせた計2500万円を元手に、「究極の醤油ラーメン屋」を開業することにした。
「味はもちろん、空間が大事だ」
彼は内装に異常なほどこだわった。一枚板のカウンター、特注の有田焼のどんぶり、ジャズが流れる高級スピーカー。
初期費用だけで1200万円が消えたが、彼は自信満々だった。
「本物がわかる客だけ来ればいい。一杯1200円でも、俺の『おもてなし』があれば行列ができるはずだ」
第2章:オープンバブル崩壊と「勘違い」
オープン初月。店は連日満員だった。
会社時代の部下、取引先、友人がお祝いの花を持って駆けつけたからだ。
「さすが佐々木部長!」「こんな店持ちたいですよ!」
佐々木は白い調理服に身を包み、高揚感に浸っていた。「見たか、会社の人事部。これが俺の実力だ」
だが、地獄は2ヶ月目から始まった。
知人の来店が一巡すると、客足はパタリと止まった。ランチタイムのピーク時でも、客は1人か2人。
理由は明白だった。味は「普通」なのに値段が高い。そして、駅徒歩15分という立地の悪さ。
だが、元営業部長のプライドが邪魔をして、彼は「味の改善」ではなく「精神論」に走った。
「アルバイトの挨拶がなってないからだ!」「もっとビラを配れ!」
客のいない店内で、佐々木の怒鳴り声だけが響く。バイトは次々と辞めていった。
(第3章:スープと共に流れた老後資金)
開業から半年。
通帳の残高は、まさかの「数十万円」になっていた。毎月の赤字は50万円超。運転資金として残しておいた金も底をついた。
今日も、朝5時から仕込んだスープを、夜10時に排水溝へ捨てる。
「……もったいない」
このスープは、ただの汁じゃない。俺の退職金だ。俺の老後だ。
ザザザァーッという排水音だけが、静まり返った店内に響く。
家では妻が「だから反対したのに!」と泣き崩れている。来月の家賃が払えない。再就職しようにも、55歳・飲食未経験の元部長を雇う会社などない。
ピカピカの一枚板のカウンターに突っ伏し、佐々木は嗚咽した。
「俺は2000万円払って……地獄を買ったのか……」
SHINZOUの深掘り分析
いいか、現実はこれだ。
会社員が勘違いするのは、「会社の看板」を「自分の実力」だと思っていることだ。
営業部長としてチヤホヤされていたのは、お前に魅力があったからじゃない。お前の後ろにある「会社の発注権限」に魅力があっただけだ。
それを脱サラして裸になった瞬間、お前はただの「こだわりの強い頑固オヤジ」になる。
飲食は「FLコスト(食材費+人件費)」と「家賃」の戦いだ。
退職金という虎の子を、回転率の悪い内装や食器に溶かすなんざ、自殺行為に等しい。
「客が来ない店」で一人、時計の針を見つめる恐怖。
上司に怒られるストレスの比じゃないぞ。あれは、魂が削られる音だ。
💀 読者への問いかけ
お前の中に、「いつかカフェでもやりたい」なんて甘い夢はないか?
その2000万があれば、S&P500で年4%で回せば月6万の不労所得だ。
汗水たらしてスープを捨てるのと、どっちが幸せか……一度冷静に考えてみろ。
👤 この記事を書いた人
SHINZOU(しんぞう)
不動産業・便利業ブロガー。
投資歴35年。金融・不動産の国家資格に加え、建物(電気・給水)から庭、船舶まで知り尽くした「暮らしと資産のスペシャリスト」として、きれいごと抜きの現実を発信する。
※本記事は、実際の事例や掲示板の投稿を参考にしたケーススタディ(フィクション)です。
※経営判断は個人の責任において行ってください。

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